働き方改革関連法案 〜高度プロフェッショナル制度とは?〜

2018年5月31日、安倍政権が今国会の目玉として位置付けている働き方改革法案が衆院を通過しました。今後は参院での審議となります。具体的法案の内容については、以前「働き方改革関連法案の動向」でご紹介していますので、そちらに譲るとして、本日は法案の中で依然野党が反対をしている「高度プロフェッショナル制度」について触れたいと思います。

また、それと関連して、本法案が衆院を通過した翌日の6月1日に、最高裁において、「正社員と非正社員の待遇差が、労働契約法が禁じる『不合理な格差』に当たるかどうか」が争われた2つの訴訟の判決が出ており、企業への影響のある部分と考えています。内容については後日のブログで触れたいと思っていますが、働き方改革関連法案と併せて、「同一労働同一賃金」の条件整備が進んできていることが分かります。

1)「高度プロフェッショナル制度」とは?

「高度プロフェッショナル制度」とは「一定の業務」「一定の年収」「一定の条件」を満たす従業員に対して、労基法による労働時間、休日等の規制の対象から外すという制度のことで、「ホワイトカラー・エグゼンプション」「残業代ゼロ法案・制度」などとも言われています。

なお「一定の業務」については、「『高度の専門的知識等を必要とする』とともに『従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められる』という性質の範囲内で、具体的には省令で規定される。」とあり、金融商品の開発業務、金融商品のディーリング業務、アナリストの業務、コンサルタントの業務、研究開発業務等が想定されています。

また「一定の年収」については、「1年間に支払われると見込まれる賃金の額が、『平均給与額』の3倍を相当程度上回る水準」として、「省令で規定される額(1,075万円を参考に検討)以上である労働者」とされています。

更に「一定の条件」については、 「職務が明確に決まっている」ことや、「本人の同意が必要」などの条件があり、また、「使用者は、客観的な方法等により在社時間等の時間である『健康管理時間』を把握し、その健康管理時間に基づき、インターバル措置や、健康管理時間の上限措置などを実施し、併せて、健康管理時間が一定時間を超えた者に対して、医師による面接指導を実施する」とされています。 

今一度の確認としては、「高度プロフェッショナル制度」においては時間外、深夜、休日労働の割増賃金は「全て」対象外となります。この点で、深夜残業は適用される管理監督職の取り扱いとも異なりますし、深夜、休日労働の割増賃金が適用される裁量労働制の取り扱いとも異なる点には注意が必要です。つまり「高度プロフェッショナル制度」については労働時間に関する規制、保護は一切ないということになります。

2)「高度プロフェッショナル制度」の何が問題なのか?

では、「高度プロフェッショナル制度」の何が問題なのでしょうか?代表的なポイントを挙げますと以下の2点になります。

一点目は、「一定の年収」の要件が「省令で規定される額」とされており、現時点で参考とされている1,075万円という水準はあくまで参考ということで、将来的にこの額が下げられる可能性が十分あり得るということが挙げられます。現時点で1,000万円を超える水準ということで、多くのサラリーマンが自分には関係ないものと思われているかもしれませんが、この金額が下がって来る可能性を考えれば対岸の火事ではなくなります。

二点目は、本質的な問題になりますが、この「高度プロフェッショナル制度」が「労働者保護」を大前提とする労基法の基本理念と親和性があるか?という点になります。少しく大上段になりますが、憲法にある「生存権」と「勤労条件の基準」を具体化したものが労働基準法であり、その中で労働条件は「人に値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない」とされており、その考え方を具現化したのが「1日8時間」「1週40時間」という労働時間となっている訳ですが、この「高度プロフェッショナル制度」については、そうした労基法の精神や観点から逸脱していると言われても仕方がない内容になっています。少し極端な言い方をすると、「高度プロフェッショナル制度」の対象となる社員は、労基法の対象外とすることにかなり近いと言えるでしょう。(もちろん全てではないのですが)

3)賛成か反対か?

この「高度プロフェッショナル制度」に関しては賛成、反対の立場から様々な意見があると思いますが、私の現時点での意見は以下の通りです。あくまで個人的な意見となりますので、内容に稚拙な部分もあることを予めご容赦頂きたく思います。

グローバル化が加速する中で、特にホワイトカラーと言われる層には「時間」ではなく、仕事の「成果」や「成果に至るプロセスにおける行動」に基づいて賃金が決まる制度とすることが公正であると考えられ、そういう意味で「高度プロフェッショナル制度」のような働き方は「あり」と考えます。制度の導入により、より効率的に仕事をすることが前提の働き方となり、生産性の高い働き方となる可能性があります。日本のホワイトカラーの生産性は世界的に見て非常に低い水準にあることは明らかとなっていますが、「高度プロフェッショナル制度」はそれを改善する一つの有効な施策として捉えることができると考えます。

しかしながら、私は現時点での本制度導入には否定的です。理由としては、以下の点が挙げられます。
①そもそも今回の制度対象の条件では、該当する労働者が現実的にはほとんどおらず、ただ制度を導入することありきになってしまっている感が強い。これでは却って将来に禍根を残すリスクがある。

②「高度プロフェッショナル制度」が正しく機能するには「職務」が限定されていなくはいけない。そうでなければ業務量の際限がなく、まさに24時間労働になってしまう危険性がある。つまり仕事量が一定レベル以上コントロールできなければいけないと考えるが、日本企業では、かなり大手の会社でも、そうした職務の定義付けと仕事量のコントロールが正直下手であり、現実として職務の限定ができていない場合がほとんどの状態にあることから、まずは職能ベースではなく、役割や職務ベースの仕組みにもっと日本企業が慣れることが先であると考える。

③セーフティネットが不十分。健康管理時間の把握と、その結果に基づく措置を使用者が怠った場合には厳罰を課すようにすべきであると考える。

④「高度プロフェッショナル制度」に絡む論点は、「ビジネスのグローバル化の中で、日本の競争力をどう維持し高めて行くのか?」や、「労働者の保護」、更には「労働者にとって幸せな働き方とはどのような働き方なのか?」「働くとはどういうことなのか?」といった多様でかつ奥深いものになると考えており、今更ではあるが、もう少し丁寧な議論と整理が必要なのではないかと思われる。

 

そこで個人的には、この制度を、むしろ逆に、もう少し適用範囲を広げて、つまり年収水準ももう少し低くするなどして、言い方は悪いですが、モルモットになってくれる企業を募り、臨床実験を3年ほどやってみてはどうかと考えます。その実験に参加してくれた企業には減税を適用したり、また対象となった社員については定期的にヒアリングを行い、残業の状況や健康管理の状況などをモニタリングするとともに、3年経過して実験結果が芳しくなければ、制度を元に戻し、その間の残業代の全部または一部を清算するなどすれば良いと考えます。そして、この実験結果をベースとして、賛成派と反対派が、オープンに、Win-Winの意識をもって議論し、日本の競争力を維持・向上させつつ、労働者保護も適切に実行できる制度や働き方、つまり「第3の案」を創出することができれば最高と考えます。

少々話が飛躍してしまいましたが、飛躍ついでに。今 日本は様々な面で非常に難しい問題に直面しています。こうした問題の前では初めから満足できる「正解」に辿り着くことは難しいと考えられますので、是非小さい単位で実験をして、結果をモニタリングし、小さな失敗を繰り返しながら(それは失敗ではありませんが)、それらを修正していくことで、より良い正解に辿り着く方法をもっと活用してはどうかと考えるところです。

本日は以上です。

 

2018年6月5日
シナジー&エフェクト
人事・人材開発事業担当代表

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