副業・兼業の動向

本日は「副業・兼業の動向」です。

厚生労働省のHPに「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が掲載されていることは、皆さんご存知でしょうか? 副業・兼業に関しては、いわゆる「働き方改革」のテーマの一つとして議論されており、2018年1月には本ガイドラインが公式に発表されると同時に、厚生労働省から出されている「モデル就業規則」における副業等の定めについても、内容が変更され、副業可能を前提とする記載に改定されています。

つまり、既に流れは副業・兼業可能を前提とする方向に進んでおり、今後副業・兼業を希望する社員が増えて来ることも考えられますので、経営者の皆様や、人事部では、そのための準備を進めておく必要があると考えます。

では、先のガイドラインも踏まえて副業・兼業の動向を以下で確認して行きましょう。

 

1)副業・兼業促進の背景

そもそも、政府は今なぜ副業・兼業を促進しようとしているのでしょうか?
ガイドラインによれば、それは、日本の少子高齢化に伴う労働人口の減少を背景に、より柔軟な働き方の実現による生産性の向上や、労働力の確保のための施策の一つとして、副業・兼業を促進することで、労働者・企業・社会にとってメリットがあるから、ということになります。

2)副業・兼業のメリットと留意点

では、副業・兼業のメリットと留意点にはどういったことがあるのでしょか?ガイドラインには、以下のような内容が挙げられています。(以下はガイドラインの抜粋)

【労働者】
◇メリット:
(1)離職せずとも別の仕事に就くことが可能となり、スキルや経験を得ることで、 労働者が主体的にキャリアを形成することができる。 
(2)本業の所得を活かして、自分がやりたいことに挑戦でき、自己実現を追求する ことができる。 
(3)所得が増加する。
(4)本業を続けつつ、よりリスクの小さい形で将来の起業・転職に向けた準備・試行ができる。 

◆留意点:
(1)就業時間が長くなる可能性があるため、労働者自身による就業時間や健康の管理も一定程度必要である。
(2)1職務専念義務、秘密保持義務、競業避止義務を意識することが必要である。
(3)1週間の所定労働時間が短い業務を複数行う場合には、雇用保険等の適用がない場合があることに留意が必要である。

【企業】 
◇メリット:
(1)労働者が社内では得られない知識・スキルを獲得することができる。
(2)労働者の自律性・自主性を促すことができる。
(3)優秀な人材の獲得・流出の防止ができ、競争力が向上する。
(4)労働者が社外から新たな知識・情報や人脈を入れることで、事業機会の拡大につながる。 

◆留意点:
(1)必要な就業時間の把握・管理や健康管理への対応、職務専念義務、秘密保持義務、競業避止義務をどう確保するかという懸念への対応が必要である。

【社会】
◇メリット:
副業・兼業は、社会全体としてみれば、オープンイノベーションや起業の手段としても有効であり、都市部の人材を地方でも活かすという観点から地方創生にも資する面もあると考えられる。 

 

3)モデル就業規則

次に「モデル就業規則」における副業等の定めはどのように変わったのでしょうか? 以下が該当箇所の抜粋になります。問題となるのは、挙げられている4つの禁止又は制限項目の具体的内容やレベルになると考えますが、基本的には「副業・兼業可能」が前提となりますので、過度に禁止・制限を行うことは認められないと考えられます。②の企業秘密について言えば、相当に限定された特定の情報等になると考えられます。
なお、従来から法解釈上は、副業・兼業が本業の労働時間外で行われる場合には、本業使用者の権限の及ばない私生活上の行為であることから、一律に副業・兼業を禁止することはできないと考えるのがスタンダードであったことを補足しておきます。

【モデル就業規則】
(副業・兼業)
第67条 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。 
2 労働者は、前項の業務に従事するにあたっては、事前に、会社に所定の届出を行うものとする。
3 第1項の業務に従事することにより、次の各号のいずれかに該当する場合には、会社は、これを禁止又は制限することができる。
①労務提供上の支障がある場合
②企業秘密が漏洩する場合
③会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合 
④競業により、企業の利益を害する場合 

4)副業・兼業を促進する上での課題

副業・兼業を促進して行く上で、以下に挙げる点について課題があり、今後更なる整理が必要であることがガイドラインにも記載されています。
①本業側の使用者の責任の範囲
②労働時間の通算の考え方
③健康管理
④社会保険及び労災保険適用の方法

それぞれの内容についてここでは詳しくは触れませんが、非常に重要で、なあなあにはできない内容であると考えられ、副業・兼業を促進して行くのであれば、整理を急ぐ必要があると考えます。

5)上記を踏まえての所感

本日は副業・兼業について、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」をベースに現状の動向の確認を行いました。副業・兼業については、整理すべき課題が諸々残されていますが、大きな流れは既に定まっており、企業はそうした動向を踏まえつつ「副業・兼業を可能とする」ことを前提とした準備や整理を進めて行く必要があると考えますし、昨今の人材不足の状況を考慮すれば、中小企業などが、むしろ積極的に副業・兼業を可能とし、人材の確保に繋げるということも考えられると思います。(そのために、まず自社の人材戦略を良く検討すべきと思います)

一方、副業・兼業の実施は、まず労働者が希望する所から始まりますが、実際に希望する労働者がどの程度いるかは未知数です。現実問題として、SNSを利用したオークション等で若干の副収入を得るということは、既に多くの労働者が行っており、また今後も更に増加することが予想されますが、一定程度以上のリスクを冒して、その域を超えて収入を増やすことや、将来のキャリアやスキルの伸長、更には独立まで想定して副業・兼業を希望する労働者が多数になるか?と言われると、甚だ疑問ではあります。

また私自身の経験として、起業する前に、サラリーマンをやりながら起業準備をする時期があり、その期間は、当然本業でフルタイム働いてから、夜や休日を使っての作業となりましたが、この準備期間を副業・兼業相当と見れば、やはり労働時間は相当に長くなり、かなり高い意識や覚悟を持っていないと、本業と副業・兼業をきちんと両立することは難しいことを実感しました。副業・兼業がもう少し普及し、本業と副業の仕事量や労働時間のバランスを調整できるようになれば、労働者にとっては使いやすい仕組みになると考えますが、そうなると本業側企業の負担が大きくなることも予想されます。

しかしながら、個人的には、やはり副業・兼業の促進は歓迎すべきことと考えています。理由としては、この仕組みが、労働者にとっては、人生が80年、90年、100年となるライフシフトが現実的になってきている現代において、少しでも安定的にキャリアチェンジを実現させて行くためのシステムとなる可能性がありますし、また、労働者が複数の収入源を持つことは、現代においては特に、労働者にとっての経済的安定に繋がると考えられるからです。そして一方、企業にとっては、本業側、副業側両方の立場で考えなくてはいけませんが、労働人口の急激な減少の中で、人材の維持・確保に繋がる仕組みとして機能する可能性があるからです。

労働者、本業側企業、副業側企業の三方良しとなるシステムのために、今後引き続き関係者が知恵を出し、また実験を行って行くことが重要と考えます。

 

2018620
シナジー&エフェクト
人事・人材開発事業担当代表

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