今更ですが、「働き方改革」とは?

「会社の『働き方改革』の取組みとして、残業が規制されていますが、仕事量は減らないし人員も増えない。一体どうすれば良いのでしょうか?」

これはある会社の従業員の方からのご相談です。過去他の方からも同じ内容のご相談をいただいたことがありますが、同様の内容で悩まれている方も多いのではないでしょうか?

このご相談内容にあるような状況を生み出している原因の一つに、「働き方改革」についての誤解や理解不足があると考えており、そうした誤解や理解不足に基づいた規則・ルール・取組みが「『働き方改革』という言葉を聞くと白ける」といったビジネスパーソンの反応を生み、会社退社後にカフェで仕事をするビジネスパーソンの増加といった状況を作り出していると考えています。

では、そもそも「働き方改革」とは何なのでしょうか?
どうしても残業の抑制や規制といったイメージが先行してしまうのですが、改めて「働き方改革」について確認してみたく思います。

「働き方改革」は、2016年8月に発足した第三次安倍内閣において、一億総活躍社会(←最近めっきり聞かなくなりましたが)の実現に向けて、「働き方改革担当大臣」が任命され、本格的な活動がスタートした改革のことです。本改革は、日本の少子高齢化とそれに伴う労働人口の減少を背景とし、日本経済の再生と持続的な成長のためには、多様な労働力の活用が必要であり、そのためには「長時間労働の是正」「労働生産性の向上」を実現することでワーク・ライフ・バランスを確保し、また併せて「転職が不利にならない柔軟な労働市場や企業慣行の確立」や「正規・非正規社員の格差是正」(同一労働同一賃金)を実現させることで、中間層の所得を安定化してその厚みを増やし、消費を底上げすることで経済を活性化させ、引いては出生率を改善させることも狙いとしています。なおご参考まで、2017年3月28日に「働き方改革実現会議」(首相官邸の政策会議の一つ)にて決定した「働き方実行計画」の抜粋を本ブログの最後に添付していますので、関心のある方はご一読いただければと思います。

ご確認いただけたように、働き方改革においては確かに「長時間労働」を「多用な労働力の活用の妨げになる最大の要因」として、その是正を謳っていますが、一方で「労働生産性の向上」がセットになっている点が重要であり、冒頭のご相談のケースもそうですが、多くの場合この労働生産性向上に対する企業の打ち手が十分でないものと考えます。

では「労働生産性の向上」のためには何をすれば良いのでしょうか?

これは総合的な取組みとなりますし、もちろん会社によっても異なりますが、大きく捉えれば以下の3つの取組みが挙げられると考えます。

1)社員の能力向上、隙間時間を利用する等による時間配分の効率化
基本的には業務量を減らすことなく、全体としてより短い時間で従来と同じ量の業務を行う取組みです。様々な施策が考えられ、実施することで一定の成果が見込めますが、取組みによっては、度を超すと社員にとって負担が大きくなり、却って生産性を落とすものも含まれますので注意が必要です。冒頭にあるご相談のようなケースの場合、この1)のみの取組みに残業規制(強制的な退社時間の設定)がセットされて実施されている場合が多いのではないでしょうか。

2)業務自体の見直し・削減
労働生産性向上の最も重要な取組みは「業務自体を見直す・減らす」ことに他なりません。「そんなこと言っても上から業務が降って来るので、業務は減らせません。。」との声が聞こえてきそうですし、その現実は理解するところですが、それでもやはり「業務自体を見直す・減らす」ことが必要です。そのためには、個々の社員がそれぞれの業務の優先順位を付けて、上司との話し合いのもとで優先順位の低い業務はやらない、または遅らせる等の判断をすることも重要ですが、加えて各組織単位、引いては会社単位で、経営者や管理職が先頭に立って、本当に今取組む必要のある課題や目標、そして業務を絞り込むことが肝要です。これは既に「経営戦略」や「ビジネスモデル」の話とも言えますが、まさにその通りであり、労働生産性の問題を社員や人事だけの問題として捉えている限り、本当の意味でその向上は図れませんし、結果、働き方改革も残念な結果に終わってしまう可能性が高くなると考えます。

3)ITやAI(人口知能)等の活用
これは1)と2)とはやや趣を異にしますが、要はオートメーション化による合理化です。既に金融業界などではその活用により雇用への影響も出始めましたが、AIは今後5年以内に、間違いなくビジネスの世界に劇的な変化をもたらすこととでしょう。スマホが我々の生活を大きく変化させてきていることを考えれば、その変化のインパクトの大きさがうかがい知れると思います。そして、ここで最も重要なのは、AI等に置き換えることのできる業務に就いている社員がより高度な、効果性の高い業務にシフトして行くことによって、労働生産性を更に向上させることと考えます。

以上を踏まえ、冒頭のご相談について言えるのは、ご相談者のお勤めの会社で行われている所謂「働き方改革」は単なる労働時間の規制・制限を行なっているに過ぎず、本来の「働き方改革」とは異なる取組みである可能性が高いということです。言い換えれば、ご相談者のお勤めの会社で労働時間の制限・規制のことを、とりあえず「働き方改革」と呼んでいるということになるのですが、問題は、程度の差こそあれ、同じような対応をされている会社が多数あるということです。皆様の会社ではいかがでしょうか?

もし貴社において、本来の意味での「働き方改革」を実施したいと考えているが、どう進めて良いか分からない。多忙な日常の中で手が付けられない等のお悩みがあればご相談ください。

2018年1月11日
シナジー&エフェクト
人事・人材開発・組織開発事業担当代表

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(参考)働き方実行計画(抜粋) 平成29年3月28日働き方改革実現会議決定
(2)今後の取組の基本的考え方
日本経済再生に向けて、最大のチャレンジは働き方改革である。「働き方」は「暮らし方」そのものであり、働き方改革は、日本の企業文化、日本人の ライフスタイル、日本の働くということに対する考え方そのものに手を付けていく改革である。

多くの人が、働き方改革を進めていくことは、人々のワ ーク・ライフ・バランスにとっても、生産性にとっても好ましいと認識しながら、これまでトータルな形で本格的改革に着手することができてこなかった。その変革には、社会を変えるエネルギーが必要である。 安倍内閣は、一人ひとりの意思や能力、そして置かれた個々の事情に応じた、多様で柔軟な働き方を選択可能とする社会を追求する。働く人の視点に 立って、労働制度の抜本改革を行い、企業文化や風土を変えようとするものである。 改革の目指すところは、働く方一人ひとりが、より良い将来の展望を持ち 得るようにすることである。多様な働き方が可能な中において、自分の未来 を自ら創っていくことができる社会を創る。意欲ある方々に多様なチャンス を生み出す。

日本の労働制度と働き方には、労働参加、子育てや介護等との両立、転職・ 再就職、副業・兼業など様々な課題があることに加え、労働生産性の向上を 阻む諸問題がある。「正規」、「非正規」という2つの働き方の不合理な処遇 の差は、正当な処遇がなされていないという気持ちを「非正規」労働者に起 こさせ、頑張ろうという意欲をなくす。これに対し、正規と非正規の理由なき格差を埋めていけば、自分の能力を評価されていると納得感が生じる。納得感は労働者が働くモチベーションを誘引するインセンティブとして重要であり、それによって労働生産性が向上していく。

また、長時間労働は、健康の確保だけでなく、仕事と家庭生活との両立を困難にし、少子化の原因や、 女性のキャリア形成を阻む原因、男性の家庭参加を阻む原因になっている。 これに対し、長時間労働を是正すれば、ワーク・ライフ・バランスが改善し、女性や高齢者も仕事に就きやすくなり、労働参加率の向上に結びつく。経営者は、どのように働いてもらうかに関心を高め、単位時間(マンアワー)当たりの労働生産性向上につながる。

さらに、単線型の日本のキャリアバスでは、ライフステージに合った仕事の仕方を選択しにくい。これに対し、転職が不利にならない柔軟な労働市場や企業慣行を確立すれば、労働者が自分に 合った働き方を選択して自らキャリアを設計できるようになり、付加価値の 高い産業への転職・再就職を通じて国全体の生産性の向上にもつながる。

働き方改革こそが、労働生産性を改善するための最良の手段である。生産性向上の成果を働く人に分配することで、賃金の上昇、需要の拡大を通じた 成長を図る「成長と分配の好循環」が構築される。個人の所得拡大、企業の生産性と収益力の向上、国の経済成長が同時に達成される。すなわち、働き方改革は、社会問題であるとともに、経済問題であり、日本経済の潜在成長力の底上げにもつながる、第三の矢・構造改革の柱となる改革である。

雇用情勢が好転している今こそ、働き方改革を一気に進める大きなチャン スである。政労使が正に3本の矢となって一体となって取り組んでいくこと が必要である。多様かつ柔軟な働き方が選択可能となるよう、社会の発想や制度を大きく転換しなければならない。世の中から「非正規」という言葉を一掃していく。そして、長時間労働を自慢するかのような風潮が蔓延・常識 化している現状を変えていく。さらに、単線型の日本のキャリアパスを変えていく。

人々が人生を豊かに生きていく。中間層が厚みを増し、消費を押し上げ、 より多くの方が心豊かな家庭を持てるようになる。そうなれば、日本の出生率は改善していく。働く人々の視点に立った働き方改革を、着実に進めていく。

 

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